コンタクトセンター運用責任者に学ぶ、ナレッジマネジメント

2024.10.03 NEW

スタッフが持つ知識を組織の財産として活用し、ユーザーに還元して顧客満足度を高めるためには、どのような工夫が必要でしょうか?特に、スタッフの経験やノウハウをいかにして全体で活用できるかが大きな鍵となります。今回のインタビューでは、100以上のコンタクトセンターを立ち上げてきた当社執行役員、桐川将哉に、ナレッジマネジメントの重要性とその実践方法についてお話を伺いました。膨大な情報をどう整理し、共有するかのヒントをぜひご覧ください。

インタビュイー紹介

桐川 将哉

ディー・キュービック株式会社 執行役員 兼 CX本部 本部長

 

CRM・BPO業界で26年の経験を持つ。現場オペレーターからキャリアをスタートし、SV、センターマネージャーを経て現職へ。100以上のコンタクトセンター立上げ・運用を手掛け、現場ファーストの改善活動を推進している。

ナレッジマネジメントとは、個人が持つノウハウを形式知化する手段

ナレッジマネジメントの意味

-最近、社内外でナレッジマネジメントという言葉をよく聞きます。

確かに流行っていますよね。ナレッジマネジメントって、一般的には「(暗黙知的に)個人が持っている知識やノウハウを組織全体で活用すること」と解釈されてて、情報を「よく活用される情報」「ほとんど発生しないレアケース」のように仕分けして、主に前者を有益な情報として組織の中で共有したり活用したりするためのメソッドであるとされてます。これがいわゆる形式知化です。最近だと、これらを管理するためのツール導入を模索する企業も多い印象ですね。絶賛流行中の生成AIと絡めるシステムも新しく出てきていますし。

ナレッジマネジメントが解決する課題

-なぜ流行っているのでしょうか?

いろいろな要素があると思いますが、例えば”人手不足”、”人材の高齢化”。これらは多くのビジネスパーソンが大なり小なり潜在的な不安として感じていて、これらを解決する手法として説得力があるからじゃないですかね。

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ナレッジマネジメントの業務適性

-ナレッジマネジメントという手法は業務によって向き不向きはあるのですか?

収集方法やナレッジの定義次第でどのような業務でも活用できると考えていますが、その中でも特にユーザーの課題解決を一番に考える業務は、ナレッジマネジメントとの相性が非常に良いです。
わかりやすいのは、カスタマーサポートやヘルプデスク。対応範囲が明確で解決方法が多様にあるので、ユーザーの困りごとを最短で解決に導くためのナレッジを蓄積することができます。逆に、「○○と答えなくてはいけない」と見解が明確に定まっている業務や、回答時に都度クライアントからの許可が必要な業務はあまり適さないです。全くできないわけじゃないけど、できる範囲は狭くなってしまう。お客様の問題解決が目的ではなく、疑問や課題に対して企業としての模範回答を提示することが優先される業務は、ナレッジマネジメントの効果が薄くなってしまいがちかもしれません。

オペレーターが新しい知識を覚えなくていい仕組みを作りたかった

導入の経緯

-当社でもナレッジマネジメントを導入しようと考えた理由は何だったのでしょうか?

当社の場合、豊富な経験を持つベテラン層にオペレーションを頼り切っていた結果、いつの間にか知識が属人化してしまっていた。経験豊富なベテランには負荷がかかり続ける一方で、新たに着台した新人にはその経験が得られない、得られてもスピードが遅い。このままだと、いずれはクライアントが満足いくサービスが提供できなくなってしまうのではないか、という恐怖がありました。もちろん、新人にもマニュアルやトークスクリプトなどを利用した教育は行っているし、一般的な定義でのナレッジマネジメントの活用自体は以前から試みてはきてるんですけどね。

属人化の原因

-なぜ属人化してしまうんでしょうか?

我々の業態の場合、電話というチャネル特性の影響は大きいと思います。基本的に、電話は一度出てしまえば、その先はユーザーとオペレーターが一対一で向き合うコミュニケーション手段なので、周囲は助けてあげられません。もちろん、今はチームリーダーや管理者が通話内容をモニタリングして状況に応じて指示や助言を送るような仕組みもありますが、よほどのことがない限り、通話に直接割り込んでいけるわけではない。電話という閉じたコミュニケーションでユーザーとオペレーター間でプロセスが完結し、どのようなコミュニケーションがとられたのかが正しく共有されないと、属人化しやすい業態ではないかと感じます。

コンタクトセンターに求めるもの、求められるもの

-確かに、個人が知識を身に付けていくということは実は大変なことだと思います。しかし、コンタクトセンターやカスタマーサポートの現場は、そんなに覚えなくてはいけないことが増えているのですか?

テクノロジーの発展により、ユーザーはSNSや動画共有サービス等を通してたくさんの情報をユーザー間で共有できるようになり、コンタクトセンターやカスタマーサポートに寄せられる問い合わせは複雑かつ多様化しています。我々が研修やマニュアルなどでインプットした知識に対して、ユーザーが日常の中で直面した疑問や問題がユーザー間で膨大に共有され、お互いに知恵を出し合っているわけで、私たちはそういった状況にも目を凝らす必要があるわけですから、知っておかなければいけないことは当然増えています。

本当は、コンタクトセンターのスタッフには人間性やホスピタリティを発揮したり、身に付けることにもっと時間を割いてほしいんです。でも、現実問題として業務知識やノウハウを覚えることには時間がかかってしまいます。だからこそベテランの経験は貴重なわけですが、これを形式知化して新人にインプットしてもらうのってすごく大変です。勘所やコツといったような知識というより知恵は、言語化しづらい。簡単に身につかないんですよね。新人の側に立ってものを見てみれば、自分たちだって新しいことを勉強しようとしてもなかなか覚えられない。

だったらそもそも「覚えなくていい世界」って作れないかという思いで、うちなりのナレッジマネジメントを作り出そうと考えました。我々が考えるナレッジマネジメントは「組織の誰かは経験しているのに、自分は経験してないからわからない」という状況をなくすことができます。もちろん最低限覚えないといけないことはありますけどね。ベースとなる知識や、絶対にやってはいけないこととか。

「よくある質問」もレアケースも、分け隔てなくナレッジとして記録していく

ディー・キュービックのナレッジマネジメント

-ディー・キュービックが考えるナレッジマネジメントとはどのようなものですか?

一言で言うと「答えを紹介するためのマネジメント手法」だと思っています。答えを答えるではなく、ユーザーに答えを紹介する。疑問や問題の解決に至るまでのすべての経験をナレッジとして蓄積し、蓄積されたナレッジの中から「過去にこんなやり方で解決できました、試してみませんか?できない?じゃあ、これでできますかね?」と言うように答えを紹介・提案することで、ユーザーと一緒に困りごとを解決していく。こういった問題や困りごとの解決に至るまでの道筋を、ナレッジという形で全網羅的に記録して、探し出しやすく整えて利用できる環境を作るのが、私たちの考えるナレッジマネジメントです。

ここで言うナレッジとは、例えばマニュアルやトークスクリプトのような”すでに形式知化されている知識”もナレッジですし、FAQのようなあらかじめテンプレート的に回答を用意している問い合わせ、こういったものももちろんナレッジです。今までは、これらのナレッジをより見つけやすく、引き出しやすくできるように心を砕いてきた。さらに一歩進んで、我々が志向するナレッジマネジメントでは、先ほど話した勘やコツ、ノウハウのような言語化・形式知化しづらい知識も対象に含みます。

ただ、ナレッジを蓄積していく上でいわゆるよくある質問とか、逆にイレギュラーや珍しい事象である、といった「頻出度」によってナレッジに投入するか否かを決める判断軸は一切考慮しません。とにかく、寄せられたすべての疑問や問題を利用者が引き出しやすい形に加工・構造化して投入していきます。つまり、疑問や問題に対する回答の根拠となる素材をすべてナレッジデータベースへ入れていくんです。

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もともと、我々のもとに寄せられる問い合わせは大きく二系統に分かれていて、乱暴に言っちゃえばまったく情報を持っていない初心者の質問と、豊富に情報を持った上でわからないことがあるヘビーユーザーの質問です。前者は「このお客様は何の質問をしているんだろう?」と掘り下げて聞くことで、ようやく答えがみつかることもあります。「なんだこのことか」みたいなことってよくありますよね?例えば、「印刷ができない」とおっしゃっているけど、よくよく聞いたらそもそもプリンタの電源が入っていなかった、とか。それは答えとしては「プリンタの電源をいれてください」で終わっちゃうんだけど、経験が浅いオペレーターだと、まずその可能性を想像できない。ベテランのオペレーターが優れている点は、経験から「ひょっとして電源が入っていないのではないか」とすぐに気づける、仮説を立てられるところなんです。その経験、気づきもナレッジとして共有できる仕組みを作りたいと考えていました。

ナレッジマネジメントで、ユーザーもクライアントも我々もハッピーに

ディー・キュービックのナレッジマネジメントがもたらすものとは

-当社のナレッジマネジメント運用は誰にどのようなメリットがありますか?

そもそも、我々の使命はクライアントとユーザーのコミュニケーションを橋渡しすることなんですが、我々が間に入ることにより、二者が直接やり取りをする以上に、双方に付加価値を提供することを目指しています。

例えば問い合わせという行動を起こしてくれるユーザーの背後には、同じ困りごとを抱えたユーザーが必ずいます。

私たちがユーザーとのコミュニケーションで獲得したナレッジを、FAQサイトやチャットボットへ即座に反映することで、この後ろにいるユーザーたちも常に最新の情報を知ることができ、解決が早まります。ユーザー目線だと、商品やサービスが本来持っている魅力に加えて、快適な顧客体験やセルフで完結できる解決方法の模索といった付加価値が得られることになるわけですね。クライアント目線では、ナレッジによって「顧客満足度の向上」や「ロイヤルティの強化」が図れます。

また、ユーザーから寄せられる問い合わせは、ご存じのとおり商品やサービスの提供側にとっては宝の山です。ナレッジごとの活用頻度をデータとして分析することで、製品やサービスごとにマーケティングや製品開発に活用し、新たな価値を生み出すことができます。もちろん、これらはユーザーの声を我々が代弁する形で、クライアントに向けた提言・提案を行っていきます。

さらに、我々コンタクトセンターを運用する側にとっても、ベテランの負荷を軽減し、日常業務の負担を効率化するという側面でナレッジマネジメントは大いに貢献してくれています。実際に、現在ナレッジマネジメントを取り入れた業務で従業員にアンケートを取ったところ、4.7点 / 5.0点という非常に高いスコアで従業員が手応えを感じてくれるという事例も出来ています。

つまり、ナレッジマネジメントという手法はユーザー・クライアントそして当社という三方がみんなそれまでと比べてハッピーになれる取り組みなんじゃないか、と手ごたえを感じているところです。

-ナレッジマネジメントについて大変勉強になりました。ありがとうございました。

どういたしまして。またわからないことがあればいつでも聞きに来てください。 最後までお読みいただきましてありがとうございました。何か少しでもヒントや役に立てたなら幸いです。コールセンター運営で困っている方や、ナレッジマネジメントに少しでも興味や疑問のある方がいらっしゃれば、お気軽にお問合せください。

コールセンターの運用委託から業務のデジタル化まで。
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著者情報

ディー・キュービック株式会社 マーケティング部

ディー・キュービック株式会社は、1979年に設立されたコンタクトセンター運営・DX化の専門企業です。多様化するコミュニケーション環境の中で、アナログとデジタルでの「対話」から豊かな「顧客体験」を共創する企業として、クライアントの付加価値創造を支援しています。

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