2023.08.03
人材の流動化が著しいなかで、業務の効率化、社内でのイノベーションの推進などが求められる昨今、自社で経験やノウハウを蓄積する「ナレッジデータベース」の構築を図る企業が増えています。ナレッジデータベースを構築できれば、属人化を防ぎ、事業の改善を図りやすくなるといったメリットがある一方で、情報の収集、管理、運用など従来とは異なる新しい業務を行わないといけないため、計画的に取り組む必要があります。今回はナレッジデータベースを構築するために不可欠な基礎知識とツールの種類、作成時のポイントについて解説します。
ナレッジデータベースの概要と構築するメリット、デメリットを理解することで、実際に構築する際の目的設定などにつなげやすくなります。それぞれについて以下で解説します。
ナレッジデータベース(知識データベース)とは、社内の業務に関する知識・知見を集約して、検索・閲覧できる環境のことを指します。社内の知識を活かして組織全体の技術力・生産性の向上やイノベーションの創造を目指す「ナレッジマネジメント」の運用には、ナレッジデータベースの構築が必要不可欠です。また、ナレッジデータベースと同じ意味で「ナレッジベース」が用いられることも覚えておきましょう。
ナレッジデータベースを構築するメリットとしては「属人化の防止・脱却」、「効率的な知識の共有」、「顧客対応の品質向上」が挙げられます。それぞれの詳細を以下で解説します。
個々の業務に関する知識、知見、経験、ノウハウは明文化が難しい「暗黙知」であることが一般的です。その結果、業務の品質やスピードが各人に依存して「属人化」することが大きな懸念点です。特定の業務を特定の担当者だけが担っている場合、ごく少数の人しか業務の方法を知らない「ブラックボックス」の状態になってしまうケースも少なくありません。このような状態では技術や経験の継承が難しいだけでなく、担当者が退職した際に業務そのものが回らなくなってしまうリスクを抱える可能性があります。ナレッジデータベースは、暗黙知を文章や計算式、図表で説明できる「形式知」として集約するため、属人化を防いで上記のようなリスクの防止につなげられます。
ナレッジデータベースは、形式知として業務に関する知識をまとめるだけでなく「必要なときに必要な人がいつでも見ることができる」のが大きな特徴です。複数の従業員がナレッジデータベースにアクセスするだけで知識を共有できるため、従来のように口頭での説明やOJTといった「共有のための時間」の削減につなげられます。新人教育にナレッジデータベースを活用することで、新人教育やスキルアップ研修などをより効率的に行えるようになり、ベテラン社員の負担軽減も図れるでしょう。
また、部署を横断した知識の共有も容易になるため、コミュニケーションの円滑化、互いの業務への理解の深化、連携の効率化なども図れます。さらに昨今、導入する企業が増えているリモートワーク・テレワークの環境でもスムーズに共有できるツールを活用すれば、多用な働き方において知識を効率的に共有することができます。
ナレッジデータベースは構築した後の運用だけでなく、ナレッジをまとめるプロセスそのものが従業員の成長につながることも期待できます。自身の業務を見直して、感覚的に行っていた業務を暗黙知から形式知に変換することで改善点の発見などにつなげられるからです。また、コールセンターやカスタマーサポートなどの個々のスキルや対応力に依存しがちな職種の場合、優秀なスタッフの顧客対応履歴をナレッジデータベースにしてマニュアルに落とし込むことができれば、顧客対応の平準化とボトムアップを同時に図ることも可能です。
ナレッジデータベースを構築する際は、従来はかかっていなかったコストと手間が発生することを考慮する必要があります。まず、ナレッジデータベースはExcel(エクセル)から社内Wikiなど、さまざまなツールがあり、自社の環境に適したものを導入しなければなりません。料金プランもさまざまで、有料プランのツールを導入する際はイニシャルコストとランニングコストが発生します。
導入後も担当者の配置や運用ルールの策定、管理・更新の手間が発生します。ルールが正しく決められて運用されなければ、効率的にナレッジデータベースを利用できないため、その効果を活用しにくくなってしまいます。
ナレッジデータベースはソフトウェアツールを使って作成します。さまざまな種類がありますが、一般的には文書作成ソフトや表計算ソフトを活用する方法と、専門の「ナレッジマネジメントツール」を活用する方法に大別できます。それぞれのツールについて解説します。
ExcelやWordなど、一般的企業であれば業務で使用しているソフトを使用してナレッジデータベースを作成することができます。ファイルに共有したい情報をまとめて共有設定すれば、組織全体のナレッジとして保管することが可能です。さらにインターネットを通じてデータを保管する「クラウドストレージ」にファイルを格納すれば、インターネット環境さえあればいつでもどこでも確認することができます。
メリットとしては既存のツールを使用するため、追加でイニシャルコスト・ランニングコストが必要ないことです。一方で注意点としては、ナレッジデータベースの構成、内容、共有範囲を0から設定しなければならないため、構築の手間が非常に大きいことが挙げられます。さらに「編集履歴の確認が難しい」、「検索性に課題が残る」といった理由から非効率な運用を強いられるケースが多いのも注意点といえるでしょう。
ナレッジマネジメントツールとは、ナレッジデータベースの構築を含めたナレッジマネジメントそのものを効率的に導入、運用するためのツールです。検索機能や共有範囲設定など、あらかじめナレッジマネジメントやデータベースの構築や効率的な運用を支援する機能が搭載されていることが多いため、前述したExcelやWordを使うよりも容易にナレッジデータベースを構築することができます。費用は発生しますが、長期的に安定して運用できるナレッジデータベースを構築したいケースでは有用といえるでしょう。
ナレッジマネジメントツールには大きく5種類があり、それぞれで構築するナレッジデータベースの形式も異なります。以下でそれぞれの特徴をまとめたので確認して、自社に適切なナレッジマネジメントツールの選び方の参考にしてください。
ナレッジデータベースの作り方はツールによって異なります。そのなかでも多くのケースで共通する基本的なポイントを3つ紹介します。
基本的にナレッジデータベースは不特定多数の従業員が閲覧、更新することで知識を蓄積するのを目的としています。そのため、ITリテラシーの有無に関わらず操作が簡単なツールを選定し、ナレッジデータベースを利用するハードルを下げることが大切です。
ナレッジデータベースの検索性は、スムーズな知識の利活用に直結します。そのため、検索機能が充実しており、ユーザーが求める情報を見つけやすいツールを選ぶことも重要です。また、質問回数が多い項目などは分かりやすい位置に配置するほか、「よくある質問」としてまとめることも有効です。
最初から完璧なナレッジデータベースを構築するのは困難であるため、運用しながら蓄積する情報の取捨選択、アップグレード、修正といった更新を図る必要があります。そのため長期的に「ナレッジデータベースを育てる」といった意識で取り組むことが大切です。
ナレッジデータベースの基本と作り方について解説しました。ナレッジデータベースはツールや運用を見据えた計画と準備が非常に大切です。複雑な機能やIT技術が必要なツールを使いこなすのは難易度が高い一方、ExcelやWordなど無料で使える身近なツールで構築することもナレッジデータベースを構築したことがない企業にとっては頓挫してしまうリスクが高まります。負担できる月額のコストや社内からの問い合わせの内容、マニュアルの有無など自社の現在の環境を見直して、適切なツールの導入を検討してみてください。
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